毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

江戸時代の「旅」がよみがえる☆☆☆

日垣隆さんが「旅のバイブル」として紹介していた本。田辺聖子さんの小説は「姥(うば)」のつくシリーズがあるのは知っていたので、そのひとつだろう、となめてかかっていたらものすごく読みごたえのある本だった。
それもそのはず、サブタイトルにある「小田宅子(いえこ)」さんとは実在する人物であり、この人が書いた「東路日記」という旅行記を読み解いた本だからだ。


この小田宅子さんというのは、実は俳優・高倉健さんの5代前のご先祖なのだそうだ。手元にあった「東路日記」を、面白そうだから何とか読めるようにならないか、とある人に持ちかけ、それが回り回って田辺さんが読み解く役になったという。

宅子さんは筑前(今の福岡県・中間市)に住む裕福な商家のおかみさんで、和歌などをある先生に習っていた。その仲間を含めた50代の女性4人、荷物持ちなどの供をする男性3人でお伊勢参りに出かけた、というのがこの日記のベースになっている。
しかし、その行程がすごい。福岡からまず関西を経て伊勢に参り、その後長野の善光寺にも詣でる。さらに日光東照宮、江戸を回って大阪にも滞在、5ヶ月で800里(1里は約4キロ)というから驚きだ。
関所の通行手形がなかったために関所を避けるコースになるので、大回りな上に道がとんでもなく険しい。そのほとんどを徒歩で進んでいるのだから、そのバイタリティはとてつもない。


この本は一風変わったスタイルになっていて、完全な現代語訳とも違う。それだけでは情報が足りないので、ない部分は田辺さんの想像で埋めていく。当時の風俗や地理、時代の情勢などは田辺さんが調べたものや各種引用がそのつど紹介される。小説でもなく、エッセイでもなく、始めはなじむのに苦労した。

しかし、読み進むうちにその健脚ぶりや旺盛な観光欲のようなものが面白くなり、後半はかなりのスピードで読破。
ただ、結局なぜ日垣さんがこの本を「旅のバイブル」と言われたのかはわからなかった。
宅子さんというのはユーモアあふれる人で(といっても時々に読まれる歌ぶりから察するだけで、会話は田辺さんの創作なのだが)、けがも病気もなく、みんな仲良く帰れたのはそれがよかったということなのだろうか。
中年女4人がずっと一緒にいたらけんかもしそうなものだが、行きたいところに合わせて途中で二手に分かれたり、よく旅行をする人にとってはヒントになるのかもしれない。

ただ、誰でも読める本ではないと思う。和歌が好きか、江戸時代の風俗に興味があるか、田辺さんの小説が好きな人か、どれかがなければむずかしそう。
私は3番目に当てはまり、かつ筑前の言葉が非常に自然で*1、福岡に長く住んでいたのでそれが楽しくて読めた、というだけだと思う。
我こそは「旅のバイブル」の謎を解くぞ、という方はぜひチャレンジしてください。

*1:地元の方に見てもらったそう