毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

聖書の「物語」を読んでみたら☆☆☆

柴田元幸さんの『代表質問』に著者のロジャー・パルバースさんとのインタビューが載っていて、この本についてもいろいろと話が出ていたので興味を持った。
それはこの本が「聖書の中に出てくる物語を、誰にでも読める物語として書き直した」ものだったからだ。


◆目次◆
1 ノアの箱舟
2 バベルの塔
3 壁の文字
4 ダビデゴリアテ
5 サムソンとデリラ
6 スザンナ
7 ヨブ
8 ヨナ
9 よきサマリア人
10 ヨシュア
11 ヨセフ
12 エステル
13 アダムとイブ
筆者あとがき
訳者あとがき

目次を見ればわかる通り、「ノアの箱舟」や「よきサマリア人」など、名前くらいは聞いたことがあるような有名な物語が並んでいる。著者の試みは、これらの物語をキリスト教とは切り離して語り直すことにあったそうだ。宗教に関係なく、若い人たちも含め誰にでも読んでほしいという気持ちからだったという*1
なぜなら、これらの物語は、そもそもキリスト教ができる前からあったものだからだ。

翻訳者である柴田さんのあとがきによると

「創世記」にはじまる、旧約聖書の最初の五書(いわゆる「モーセ五書」)が成立するのは紀元前四世紀ごろだが、これはおおむね、その数世紀前に成立したさらに古い資料を土台にしている。そしてそれらの資料は、かなりの部分、キリストの名を知らなかったのは当たり前として、ユダヤ教の神についてすらまったく知らなかった民衆が語り継いだ伝承を下敷きにしていたらしいのである。強烈な選民意識に貫かれた旧約聖書のさまざまな物語は、元はと言えば、「みんなの物語」だったとも言えそうなのだ(P281)。

というわけで、この本には「神」という言葉は一切出てこない。旧約聖書と読み比べたわけではないのでわからないが、おそらく物語の骨子はそのままになっていると思う。
とても読みやすく、面白く読んだ。これは、画期的なことだと思う。


私がこの本を読みたいと思ったのは、素養として、もっと言うと絵を見る時にもっとわかるようになりたいと考えたからだ。
聖書の名画はなぜこんなに面白いのか』を読んで、その気持ちが強くなった。キリスト教の素養があるのとないのでは、見方がまったく変わる。西洋の文化の多くはキリスト教の影響を色濃く受けているので、小説や映画でもおそらく知っていた方がより深く楽しめると思う。
たとえば、この本に取り上げられている「スザンナ」の物語。これは旧約聖書外伝として伝わるものだが、たくさんの絵が描かれている。
聖書の名画はなぜこんなに面白いのか』にもそんな絵のひとつが取り上げられていて、だいたいのアウトラインはわかったが、この本で読んで初めて深く理解できた。もし今後、この主題の絵を見ることがあれば、きっと今までの何倍も楽しめると思う。


ただ、物語によっては「神」が登場しないために、よくわからなくなっているものもあるようだ。聖書をよく知る人が読めば「なるほど、こんな風に書いたのか」と思えるだろうが、知らない人間が読むとうまく理解できないところもあるのかもしれない。
著者自身のあとがきによれば、この本を書いた理由は

なぜ彼らは、ああいうふうにふるまったのか?言いかえれば、ぼくは彼ら個人の、内なる動機を知りたかったのです。
(中略)
ぼくたちはみなどうやったら、自分とは違っている人々と、寛容、敬意、共感、優しさをもってつきあえるようになるのか?
そういうわけで、ぼくは「新バイブル・ストーリーズ」を書いたのです(P277-278)。


私のような読み方は著者の望むところではないかもしれない。なのであまり大きな声では言えないが、“手っ取り早く聖書に書かれた物語を知りたい”という方には絶好のテキストだと思う。
もちろん、物語としても素晴らしいものになっています。柴田さんの翻訳のうまさも堪能できます。

*1:『代表質問』で、こういう趣旨のことを話されていました