楠木先生は情報整理はこの本のやり方しかしないことにしている、と断言していたので興味を持って読んでみた。
◆目次◆
はじめに 日常を仕事に打ち込むだけで、発想力は向上する
第一章 問題意識がスパークを生む
第二章 アナログ発想で情報を集める
第三章 情報は放っておいて熟成させる
第四章 アイデアを生み育てるアナログ思考
第五章 創造力を高める右脳発想
エピローグ 生活者視点があなたをクリエイティブにする
さすがは楠木先生、わずか数行でこの本のエッセンスは全部伝わっていたのだが、具体的な方法や実例などが載っていてとても楽しく読めた。
簡単に言えば、「右脳で情報を集め、左脳で分析する」方法だ。
著者は元ボストンコンサルティンググループ(BCG)日本代表。著者が主にコンサルティング業に使ってきた方法を教えてくれる。
ここで言う情報収集や整理は、パソコンなどのデジタルツールを使って、膨大な情報にアクセスし、その情報をデータベース化し、活用するなどというものではない。普段の生活で何気なく行っている情報収集と記憶のための工夫を、ビジネスにも活用すべきであるという点を強調したいと思っている(P12)。
入力疲れ、整理疲れで終わってしまって、肝心のアウトプットができない。それでは本末転倒だ。ところが、そういうことが仕事には多すぎる(P13)。
著者によれば、人は誰でもごく当たり前に「右脳で考え、左脳で整理する」方法を使っているという。
たとえば、テレビの情報番組でランチ特集を見た時、おいしそうな店だ、と思ったとする。特にメモは取っていない。
でも、あとでランチの店をどこにしようか、と必要に迫られた時にそういえば、と思い出すことはないだろうか。
また、ドラマやCMで見かけた女優が何となく気になったとする。あれは誰だろう、と思う。すると、特に調べなくてもその後たて続けにいろんなところで見たり、誰かが話題にしていたりして、自然に情報が集まってくる。
こういう、情報収集+ひらめきのプロセスを、仕事にも使いましょう、というのが著者の提案だ。
著者の頭には、いつも20くらいの引き出しがあり、引き出しひとつにつき、20くらいのフォルダが入っているという。つまり、常時およそ400の情報・ネタがあるということだ。
わざわざ情報を集めない。意識して整理することもしない。
それでも、問題意識を持っていれば情報は集まってくるし、「レ点を打つ」(本の中では「インデクシング」とも)ことで自然に頭の中でファイリングされるのだ。それを補完する意味で実際の新聞や雑誌の切り抜きなども保存しておくそうだが、ごくごくおおざっぱなものだそうだ。
ふだん何げなくやっている方法が、少し工夫すれば仕事にも使えるというのは驚きだし、とても魅力的だ。
今までも何度か情報の整理をしようとしたことがあるが、膨大すぎる上に分類のルールがきちんと決められなくて挫折した。
でも、この方法なら同時に複数の引き出しに入れておくことも可能だし、いくつかを組み合わせて使うことも簡単になる。
著者のスタンスは非常にゆるい。このくらいでいいんだ、というのは救いになった。
「思い出せないアイデアは、たいしたアイデアではない」
「調べられないことは、仕方がない」(P97)
と、割り切ってしまう。ここを割り切らないと、エネルギーを使いすぎてアウトプットに至らない、になってしまうのだろう。
引き出しに入れる時のコツは、聞いたら忘れないタイトルをつけること。
本には実際に著者の頭の中にある引き出しとフォルダの名前のリストが紹介されているのだが、確かに「これ何だろう?」と知りたくなるような魅力的なタイトルがたくさんあった。
たとえば、「キャプテンの唇」。何だかセクシーな話?でも、キャプテンが?
――実はこれ、航海士を育てる船長(キャプテン)のエピソードなのだそうだ。
航海中にどうやって育てるかという話なのだが、当たり前であるが大海原で風も波もない中で舵取りをいくら任せても良いキャプテンには育たない。嵐の中や浅瀬や岩場の続く中での舵取りを任せて、実際に痛い目に遭わせることで初めて成長させることができるという。
…おもしろいのはその先である。実際に嵐の中で舵取りを任せると経験不足の若い航海士は危なくてとても見ていられない操船を行ってしまう。その際、つい「それではダメだから、こうしろ」とか、「そこをどけ、俺がやってみせる」と口を出してしまうそうだ。…しかし、本当にその航海士を育てたいと思ったら、口を出す代わりに自分の唇を血がにじむくらいかみしめて我慢すべきだと書いてあった(P106)。
これはある創業者の伝記に書いてあった話だそうで、「キャプテンの唇」という名前にしたのは著者。まるでコピーライターのようだが、印象的なタイトルをつければ、忘れないし、思い出しやすくなるのだ。
著者はいきなり20の引き出しはむずかしいので、初めは日常生活で無意識に使っている引き出しとは別に、仕事用の引き出しを作ることから始めるといい、と書いている。それを少しずつ増やしていく。
鍵は問題意識だ。問題意識というアンテナをしっかり立てれば、情報は自然と集まってくる。
こういう本でよく見かけるのが、「現場に行く」「アナログ」「人に話す」。この本でもすべて登場する。
情報収集ならネットで充分、と思ってしまいがちだが、それだけでは人と同じ。
集めた情報をどうスパークさせるか、についてもていねいに解説してある。
「あの人なんか面白いこと考えそうだよね」と言われる人になりたい方は必読です。
私のアクション:頭の引き出しを意識して増やす
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以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
勘を大事にする「右脳人間」からこそ、斬新なアイデアは出てくる(P11)
勘というものは、多くの場合、過去の経験に裏付けされて以前と取捨選択をした結果であり、それほど非科学的なものではない。当たる確率は決して低くない仮説なのだ。
(中略)
失敗から学び経験から大胆に仮説を立て、自由に発想する人間だからこそ、他者とは違う、ユニークなアイデアをひらめくことができる。分析のできる人間の代わりはいるが、クリエイティブな発想ができる人間の代わりはいない。
いったん持った問題意識は忘れてよい(P56)
どうせ脳のどこかに潜在意識として残っているからだ。…これまでと同じように生活し、働いていたとしても、問題意識さえあれば、関連する情報に接すると、脳が自然に引っかかってくれて、自分のデータベースと勝手に化学反応を起こしてくれる。
私生活と仕事の場合の違い(P60)
私生活では問題意識=興味でよいが、仕事の場合は自分の興味だけでは仕事の領域をカバーできないことが多い。自分の仕事に関係ある領域で、自ら問題意識を持つというステップがひとつ余計に必要。
たとえばあなたが中年のビジネスパーソンだとして、ターゲットがふだん接点のない主婦層や若者層の場合は、ふだんからそうした層に接する努力が必要になる。若者であれば、彼らが集まる場所に行く、よく読む雑誌を読み、サイトを閲覧し、テレビ番組を見る。そうした中で、情報を探る。
脳内の引き出しは勝手に増減する(P83)
たとえば、グルメな人がいる。和食や中華、フレンチ、イタリアンなど、それぞれの引き出しがある。ある時期エスニックに凝れば、エスニックの引き出しはひとつでなくなる。インド料理、インドネシア料理、ベトナム料理、タイ料理などと細分化していく。そういう時期は、たぶん、フレンチとイタリアンは分かれていても無駄なので、ひとつの引き出しになっている。そうした整理が、自由に行えるのが頭の中の引き出しのよさだ。
(中略)
容量には限界があるから、エスニックという引き出しやフォルダができた、あるいは増殖し始めた段階で、あまり行かなくなったジャンルの情報は一括りにされて、必要に応じて記憶の淘汰が始まる。
ネット検索だけでは、人はクリエイティブになれない(P103)
検索のための短いキーワードによるネット検索では、思考がスパークしにくい。すでに自分の頭の中に、たくさんの情報やデータが入っていて(引き出しがあって)、仮説も思い浮かんでいて、そこに新たな情報がぶつかることで、思考がスパークして、何かがひらめということが多い。もともと頭の中に自分だけの情報や差別化された仮説がなければ、新たな情報が入ってきてもスパークは起こらない。
戦略とは捨てることなり(P109)
新しい戦略・提案は極端に言えば誰にでも考えることができる。しかし、企業にとって本当に大事なことは、やらないこと(事業・商品・仕事の仕方・取引先・研究など)を決めることで、これが実はむずかしい。
脳内引き出しのフォルダのラベル=タイトルが重要(P127)
ありきたりの言葉だと思い出しにくいし、インデクシングになりにくい。「プリンタ屋とエレベーター屋は同じ」とか「1日に何回冷蔵庫を開けますか」のように、興味を引くタイトルがいい。タイトルに特徴があれば、思い出しやすい=引っかかりやすい。
スパークするのはあくまでも右脳(P130)
だから、右脳が使いやすいように情報を収集し、整理し、熟成させることを重視するのだ。
右脳で考えて、人に説明するために左脳で整理するのは、日常生活では自然にできていること。
スパークのポイントは喜怒哀楽の感情を大事にすること(P162)
仕事では抑えがちだが、企画には好き嫌いや怒り、喜びと言った感情をぶつけるべき。
大事なのは嫌いとか怒りといったマイナス面での感情ではなく、喜びやわくわくする感覚。