少し前、やっと『村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)』を買った。その時、河合先生と他の人の対談本がたくさん出ていることを知った*1。
これも、その中の1冊。小川さんの小説を読んだことがないのでどうかなと思ったが、とても心に染みる本だった。
◆目次◆
I 魂のあるところ
友情が生まれるとき
数字にみちびかれて
永遠につながる時間
子供の力
ホラ話の効能II 生きるとは、自分の物語をつくること
自分の物語の発見
「偶然」に気づくこと
黙っていられるかどうか
箱庭を作る
原罪と物語の誕生
多神教の日本に生まれた『源氏物語』
「死」への思い、「個」への執着
「原罪」と「原悲」
西欧一神教の人生観
厳密さと曖昧さの共存
忘れていたことが出て来る
傍にいること二人のルート―少し長すぎるあとがき 小川洋子
河合先生は、脳梗塞で突然倒れられ、確か意識が戻らないまま亡くなられたと思う*2。
この本は、本来ならもっとたくさんの対談が収録されるはずだったそうだ。1冊の本にするために、小川さんの「長いあとがき」が納められている。
次はこのテーマについて話しましょう、と約束して別れ、そのあと急に倒れて亡くなられたのだから、小川さんの悲しみや喪失感は深かったのだろう。「あとがき」からそれが伝わってくる。
河合先生が亡くなられた時、惜しい人を亡くしたと私自身も思い、残念だと感じたのは確かだ。でも、自分の中で悲しみがきちんと昇華されていなかったことに、小川さんの「長いあとがき」を読んで気がついた。
あとがきを読むうちになぜだかどんどん涙が出てきてしまって、それでも流れるままにしていると、それだけで「片づいた」ような感覚があった。
河合先生が亡くなった悲しみだけでなく、いろんなものが絡まった感情だったかもしれないが、浄化されたような気分になった。それだけでも、この本を読めてよかったかもしれない。
小川さんの文章は、とても静かで心を揺さぶるような激しさはないのに、とても不思議だ。
対談の内容についても、「あとがき」でくわしく振り返っているので、より深く読めた。
この対談のきっかけは、小川さんの『博士の愛した数式』が映画化された時、河合先生がこの作品をとても気に入っているので対談を、という話になったのだそうだ。
そのため、Iはこの作品の話(映画も含め)が中心になっている。
対談の中で、河合先生は「うまいこといく」という言葉で偶然について話されているが、この小説で小川さんが何げなくつけた名前や設定などが、実はとても深い意味を持つことに気づくくだりが素晴らしい。
そして、河合先生のテーマである「物語」が、「なぜ小説を書くのですか?」という問いに答えられなかった小川さんの答に結びついていくところは私までうれしくなってしまった。
生きるとは、自分にふさわしい、自分の物語を作り上げてゆくことに他ならない(P127)。
小説家ではない私たちは、物語を書き記したりはしないが、それでも、生きることで物語を紡いでいるのだ。
読むだけで癒される本です。西洋と東洋の違い、カウンセリングで本当に大切なことは何か、など、他の本とつながる部分もたくさんありますが、今まで読んだ河合先生関連の本の中で一番ヒーリング効果が高かった気がします(個人差はあると思いますが)。
心が疲れている時にどうぞ。
私のアクション:『博士の愛した数式』を読んでみる
■レベル:守
次の記事は私の個人的メモです。興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
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