ひとつ賢くなった、と思える本だった。
◆目次◆
はじめに
第1章 根拠のない通説にだまされないために
「因果推論」の根底にある考えかた
第2章 メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
因果推論の理想形「ランダム化比較試験」
第3章 男性医師は女性医師より優れているのか
たまたま起きた実験のような状況を利用する「自然実験」
第4章 認可保育所を増やせば母親は就業するのか
「トレンド」を取り除く「差の差分析」
第5章 テレビを見せると子どもの学力は下がるのか
第3の変数を利用する「操作変数法」
第6章 勉強ができる友人と付き合うと学力は上がるのか
「ジャンプ」に注目する「回帰不連続デザイン」
第7章 偏差値の高い大学に行けば収入は上がるのか
似た者同士の組み合わせを作る「マッチング法」
第8章 ありもののデータを分析しやすい「回帰分析」
おわりに索引
参考文献
因果推論をもっと知りたい人のためのブックガイド
「因果関係」は証明しにくい。因果関係だと思っていたが、実は相関関係だった、ということはよくある。
基本的な定義は
2つのことがらのうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じた場合、この2つのあいだには「因果関係」があるという。一方、片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にない場合は「相関関係」があるという。相関関係の場合、何らかの関係が成り立っているものの、因果関係はない(P26)
という。
本文中にも出てくる「保育所を増やす」ことで「働く母親は増える」という説。
因果関係があると思って国や自治体は保育所を増やすことに邁進しているが、実は研究結果では増えていなかったという。
因果関係をきっちり調べようとしたら、「○○していたら」と「○○していなかったら」という状況(=反事実)を同時に作り出し、それを比較しなければならない。
しかし、それはほとんどの場合不可能だ。
そこで登場するのが「因果推論」という方法。
さまざまな加工により、「反事実」に近い状態をデータの上で作り出し、比較するという方法だ。
それを解説してくれるのがこの本だ。
各章ごとに違う手法を紹介してある。
共通した設定として「全国展開のジュエリーショップを経営する企業の広報部長が、広告を出すことで得られる成果をどう検証するか」というテーマがあり、さまざまな切り口で「因果推論」の考え方を学べるようになっている。
因果関係を知っておくと、どういうメリットがあるのか。
……私たちが何か行動を起こすときには、けっこうなお金や時間がかかることが多いということを忘れてはならない。因果関係があるように見えるが、実はそうではない通説を信じて行動してしまうと、期待したような効果が得られないだけではなく、お金や時間まで無駄にしてしまう。そのお金や時間をきちんと因果関係に基づいたことに用いれば、よい結果が得られる確率ははるかに高くなるだろう(P10)。
つまり、失敗や無駄な行動を減らすことができるのだ。
著者の中室氏は教育経済学者、津川氏は医師であり医療政策学者。
この本で例として挙げられているものがほぼ教育と医療分野なのは、著者のバックボーンによる。
著者は「ビッグデータ」についても警鐘を鳴らしている。
「ビッグデータ」が流行語となる現代、データを用いた分析は氾濫している。しかし、データはそれのみでは単なる数字の羅列にすぎない。データを用いた分析を「どう解釈するか」ということが極めて大切だ。相関関係を示しているにすぎないデータ分析を、因果関係があると誤認してしまうことは誤った判断のもとになる(P184)。
専門用語がたくさん出てきてややむずかしいところもあるが、入門書なのでできるだけ理解しやすく書かれている。
これは本当に因果関係なのか、ただの相関関係ではないのかと疑ってみるだけでも、失敗を減らせる。自分で判断するために、こういうリテラシーは持っていた方がいいと思う。
統計学を学んでいる人以外にも、たくさんの人に読んでほしい本です。
私のアクション:因果関係のように書いてある文章を読んだら、「本当に因果関係なのか」考えるくせをつける
■レベル:守
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※この本の帯を書いている西内啓さんの本*1。
*1:本当は『統計学が最強の学問である』のリンクを貼りたかったんですが、読書日記を書いていませんでした