※ [Kindle版] はこちら
佐藤優さんの本『人をつくる読書術 』で紹介されていた本。
10代でゲームやスマホ依存にならないように、といった文脈のあとに出ていたので、興味を持った。恥ずかしながら、スマホやゲーム*1につい時間を使ってしまう私。何か役に立つことがあればと思い、読んでみた。
イメージしていたのとは少し違ったが、面白く読めた。
◆本の目次◆
はじめに
第1章 快感の脳内回路
第2章 脳内麻薬と薬物依存
第3章 そのほかの依存症
第4章 社会的報酬
主要参考文献
ドーパミンのしくみ
次のようなとき、ヒトの脳の中にはドーパミンが分泌されることがわかっています。
・楽しいことをしているとき
・目的を達成したとき
・他人に褒められたとき
・新しい行動を始めようとするとき
・意欲的な、やる気が出た状態になっているとき
・好奇心が働いているとき
・恋愛感情やときめきを感じているとき
・おいしいものを食べているとき (一部抜粋)(P16)
…この両者――人生の目的のために真摯に努力することと、快楽に我を忘れること――には、同じ脳内物質が関わっているのです(P4)
これが「ドーパミン」だ。
たとえば「目の前の実を食べたい」という欲求と、「これを食べずに植えれば、将来的に安定して食べられるようになる」という知能的行動は矛盾する。
その葛藤を克服するために、人の脳は快楽物質という「ご褒美」を用意し、遠い目標に向かってがんばっている時にそれが分泌されるしくみを作ったのではないか、というのが著者の仮説。
つまり快楽とは、ヒトが目的を達成するための妨げになるものではなく、給料や昇進という報酬がなかった原始時代から、ヒトの脳が用意した「頑張っている自分へのご褒美」なのです(P5)。
依存症は病気だ
依存症には3種類ある
・物質への依存(ニコチン・アルコール・薬物・食べものなど)
・プロセスへの依存(ギャンブル・インターネット・○○○○*2・買い物・仕事など)
・人間関係への依存(恋愛・カルト宗教・DV・虐待など)
対象は何であれ、ドーパミンが出る快楽を過剰に求めるのが依存症。
ただ、ドーパミンはほぼどんな人の脳にでも出ている。
ふつうはそれを抑制する物質も出るのでバランスが取れているが、それが崩れるのが依存症と言われている。
つまり、ドーパミンに依存しているので、もし仮に依存症の対象を取り除いても、新たな対象を見つけてしまう可能性もあるのだ。
ゲームはドーパミンが出るよう設計されている
オンラインゲームにはまる理由は、次のように説明されていた。
初めのうちは、誰でも1回か2回の挑戦でクリアできてしまう。旗が上がり、小さな賞賛が与えられ、達成感を得る。小さな努力と小さな達成感。しかしそれは確実にあなたの報酬系を刺激する。
次第に難しくなり、それをクリアするには努力と時間が必要になり、その分得られる達成感も大きくなる。この難度の上昇は、ドーパミン分泌系が刺激に慣れ、分泌量が減るのを妨げる。
つまり、ゲームは「いかにして報酬系を活性させ、ドーパミンを分泌させ続けるか」を考え抜かれているのだ。
このような人工の報酬系刺激装置は、いわば薬物を使わない麻薬のようなもの(P116)
――途中でやめるのはたぶん不可能なので、やはりはじめから触らないのが一番だ。報酬系を刺激されて抗える人なんてそういないし、もしできたとしても、エネルギーを使い果たしてしまうだろう。
そこまでしてゲームがやりたいか?ネットがプラスになるか?
そう思えただけでも、この本を読んだ価値はあったかも。
ハイリスクは快感だった
ハトやサルですらギャンブル・リスクに反応するというのは驚きだった。
「スキナーの箱」と呼ばれる鳩の実験。
Aの箱:スイッチを押すと必ず餌が出る
Bの箱:スイッチを押すとときどき餌が出る
この箱の中に鳩を入れて一定期間学習させたあと、ABとも餌が出ないようにした。
すると、Aの箱で学習した鳩は数回押してあきらめたのに対し、Bの箱で学習した鳩は1日中スイッチを押し続けた。
Bの箱では、餌が出たり出なかったりするスリルがスイッチを押させる動機になっていた。これがギャンブル依存症の原因では?
サルに疑似ギャンブルの体験をさせ、ドーパミン分泌量を調べた実験でも同様の結果が。
ある赤・緑・青の光を2秒間見せ、その後にシロップを与えてドーパミンの出方を調べた。
すると、50%の確率でシロップが出る青の光に対する反応が一番強かったという。
…青の光がついた直後に小さな活動が起こり、それからシロップをもらえる予定時刻までの20秒間にその反応は徐々に高くなっていくのです。
これはまるでルーレットやスロットが回転しているときの期待感のような作用です。動物は確実な報酬より、リスクを伴った報酬に強く反応するのです(P121)。
高度な知能を持つ人間だから楽しめる、と思っていたあれこれが、動物でも同じと思ったら、あっさり醒めたり我に返ったりできるかもしれない、とこれを読んで思った。
私が最も知りたかった「どうすればゲームやインターネットの依存症をやめられるのか?」について、残念ながら明確な答はなかった。
そんなことまで新書に求めるのは酷かもしれない。
広く浅く、ドーパミンの働きと依存症のメカニズム、について学べる入門書としては良書。
一化学物質であるドーパミンが、意志を持って私たちを操るわけではありません。しかし、私たちの大脳は、中脳から送られてくるこの物質の助けなしには、ものごとを決めたり、繰り返し実行したりすることができないしくみになっているのです(P19)。
これはヒトがヒトとして、とつまり前頭葉を駆使して生きていく上での宿命だとも言えるでしょう。動物に戻ることができない私たちは、快楽のしくみを知り、それをコントロールすることを学ばねばなりません(P6)。
コントロールする方法をぜひ知りたいので、中野さんにはそういう本も書いてほしい。
ただ、しくみがわかっていればうまく避けられる可能性も上がる。
ドーパミンの力は強力で、意志の力では抗えないとわかっていたら、本当に必要なところだけで出るように行動を変えるしかない。
これは実は、習慣化の本によく書いてあることだ。「やめたいことは目の前から隠せ」と、たいてい書いてある。見てから欲求を抑えようとするのは無理があるのだ。
行動科学などには脳の働きのメカニズムの裏づけがあるのだ、と理解できたのも収穫だった。
依存症になりやすい、ハマりやすいと自覚がある人には、特におすすめです。
「転ばぬ先の杖」として、読んでみてください。
私のアクション:ゲームやネットに走らないよう、日常生活で意識してドーパミンを出すしくみ(習慣化など)を作る
■レベル:守
※この本のメモはありません