毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

サービスを向上させる科学的アプローチ☆☆☆

「最強のサービス」の教科書 (講談社現代新書)
内藤 耕
講談社(現代新書)(2010/9/16)
¥756
家族が借りてきた本。サービスが評価されている企業は何が違うのか、実例が豊富に紹介されているので面白そう、と思って読んでみた。実は非常に普遍性が高く、人と関わる人なら*1業種・規模は関係なく役に立つ本だと思う。


著者の内藤耕さんはさまざまなサービス企業の調査・研究を通じて、サービス産業の生産性向上に取り組んでいる人だ。研究者らしく淡々とした文体なので、はじめは読めるかなと少し不安になったが、内容が面白く、わかりやすかったので引き込まれるように読んでしまった。


一番インパクトがあるのは最初に出てくる和倉温泉の旅館「加賀屋」だろう。“おもてなし”に力を入れ、それが評価されて長年人気1位を守っている。おもてなしはある種プロの技、それをどうやって維持しているのか、その舞台裏が紹介されている。

お客様にとってプラスになるところに集中するために、バックヤードの仕事は極力機械化・省力化されている。また、客室係が安心して働けるための制度や設備も充実させているので、結果的に非正規雇用にもかかわらず客室係の定着率が上がり、仕事のレベルも平準化してくるのだという。
つまり、自分たちの強みは何なのか、お客様の要望は何なのかを見極め、そこにエネルギーを注ぐためにやり方を変えていく方法が取られている。

スーパーホテルの事例でも、ターゲットを出張のビジネスマンに絞り、睡眠の質を向上させることに注力し、他の部分は大胆にカットしている。


さらに、面白いのは紹介されているどの企業も何らかの数値的な指標を取り入れていること。カンではなく、しっかりとした根拠に基づいて行っているのだ。
どこに力を注ぎどこをカットするのか、どう改善するのかは企業によって違うが、業界の常識にとらわれず客観的に自らを観察し、答を探していく過程は参考になる。

「人気企業の裏側見せます」的な本として読んでも面白いが、この本は改善のための宝の山だと思う。タイトルに「教科書」とあるのも、それだけ学べることが多いからだろう。


もうひとつの驚きは、「お客様にとって魅力的な企業は、働く人にとっても魅力的な職場」だということだ。職場環境改善の教科書としても読める。

「何かを変えたいがどこから手をつけたらいいかわからない」という人はぜひ読んでみてください。


以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。

「最強のサービス」=常に進化し続けられる構造(P4)

これから紹介する企業は、社会の状況や顧客の要望、嗜好に合わせ、サービスの内容や提供方法を変化させ続けている。…これは、生物の進化における、発生と適応をくり返すことで、環境の変化にしっかりと適合し、長く種を保存できる構造と同じである。このように見てくると、「最強のサービス」とは、社会や顧客の変化に合わせ、常に進化し続けられる内部構造を持っているということになる。

サービスをより効率的に提供できる仕組み作り(P50)

…個々のサービス企業にとって重要なのは、提供する商品を明確にすることで、その商品に沿った最適な提供方法を定め、サービスの価値を高めるだけでなく、機械化やマニュアル化を通して、サービスをより効率的に提供できる仕組みを作り込むことなのである。

サービスの価値を明確に認識できない場合の問題(P52)

一方、多くのサービス企業では、提供するサービスの価値を自ら明確に認識しないことから、しばしば間違った方法でサービスの提供作業の機械化やマニュアル化を進め、また顧客の満足につながらないムダな作業を従業員が現場で行っている。
顧客目線で的確な内容にサービスを提供できる仕組みが組織の内部に組み込まれていなければ、多くのサービス企業の現場で働く従業員の肉体的な負担が高まる。従業員は顧客が求める作業に専念できなくなるだけでなく、非効率な作業方法から、仕事に対する満足度が下がる。

顧客満足につながらない作業はムダ(P79)

宿泊客の満足度を高めるために、スーパーホテルでは、顧客目線のさまざまな改善作業を現場で展開している。そして、従業員は、宿泊客の満足を高めるサービスに専念できるようにするだけでなく、逆に満足につながらない作業の排除を通じて、サービスの提供作業の効率化も徹底的に進めている。
これは、顧客満足につながらない作業はムダという考えが徹底しているからである。そのようなムダな作業に投入された時間や経費は、顧客の価値を生まないだけでなく、従業員の肉体的な負担を生む。

世の中の流れを読む(P126)

競合店との激しい競争の中で、これまでにないサービスや商品を提供するために必要なことは何か。喜久屋(e−クローゼットサービスを始めたクリーニング業者)は、そのために世の中の動きを総合的に位置づけ、流れを的確に読むことからはじめている。
まず、社会の時流を「本流」「枝流」「一過性の流れ」に分けた。たとえば、インターネットの普及や少子高齢化、地球環境問題は本流、さまざまなモバイル端末の登場は枝流、昨今の経済状況や価格競争は一過性の流れという具合である。このように社会の流れを自ら分析することで、喜久屋では、人々に長く利用されるサービスや商品を開発していくことを目指している。

時間や経費を削減する「事前対応」(P137)

コート類は、多くのパーツに分かれているが、それらを別々に洗濯したのち、それらのパーツを整え、そのまま着られる状態で顧客に渡す。
(中略)
顧客に衣類を引き渡した後に、不具合があることが判明した場合、解決のための作業にさまざまなところで多くの時間や経費を要することになる。だから、基本的に事前に対応した方が全体の作業効率を高めることができるのである。

最初は小さな改善努力から(P186)

ぜひ注意してもらいたいのは、いきなり大きな投資を行って新しい仕組みを確立させるのではなく、最初はお金をかけないでできる現場の小さな改善努力を徹底的に進め、その過程で理解した顧客の要望と生まれた資金的、人員的余力を合わせ、最後に新しい投資を行うことが肝心だということである。

お金をかけずにできるリストを作る(P187)

何か改善しようとした時に、しばしば散見されるのが、できない理由を多く並べる経営者の存在である。できない理由をリストアップするのではなく、お金をかけないでできることのリストを一生懸命作ることが重要で、多くの企業の現場を訪問してきた経験から、この点がサービス企業としての成功に向けた分岐点になると、今は強く確信している。

*1:すべての人と言っていいかも。たとえば主婦業にも使えるヒントがあると思います