なるほど、確かにこれは怖い。世の中では「ソーシャルメディアは素晴らしいもの」という前提でいろいろなことが語られているが、それに一石を投じる1冊だ。
著者は出版社出身のジャーナリストで、最近は電子書籍も手がけている人だ。今年還暦を迎えるそうで、文中でもたびたび自身のことを「デジタル世代ではないおっさん」と書いている。いかにも新しいものを敵視しそうな属性ではないか。
だが、この人は好き嫌いで書いていない。きちんと論旨があり、根拠も提示されている。
たとえば…
- ネット広告の世界ではすでに個人の属性ではなく行動データを集めることが重視されているそうだ。ソーシャルメディアだとそれが簡単に得られるため、事実上すでにネットでプライバシーは存在しない。
- Facebookで本当に世界とつながれるのか?もとはクローズドだった大学の“社交クラブ”をネットに置きかえただけなので、自分と世界の違う人と交流している人は少ない*1。
- アメリカの若者は「ウォール街」を目の敵にしているが、実は「ウォール街」と「シリコンバレー」の上層部は同じような学歴の人々が牽引しており、実はIT業界からも搾取されているようなもの。
中でも一番衝撃的だったのは、「ニュースはネットで見るから」と新聞を読まなくなった結果、何が起こるのかという話だった。
すでにアメリカではかなりの数の地方紙が廃刊に追い込まれており、新聞のなくなった地方都市では公務員の不祥事や投票率の低下などが増加しているのだそうだ。新聞記者がいなくなり、チェック機能が働かなくなった結果だという。
確かに、新聞がなくなれば記者はいなくなる。現場に足を運ぶ人がいなくなれば、得られる情報の質は落ちるし、抑止力も働かなくなる。何らかの形で記者を残す工夫をするべきだ、という著者の意見には説得力がある。
今まで私も「新聞要らない」派だったのだが、もう言えないなと思った。
内容はソーシャルメディアのことだけにとどまらない。著者が一番危惧しているのは、インターネットによって「情報はタダで手に入るもの」と思ってしまった人たちが正当な対価を払わなくなったことにより、世の中がどんどん“おバカ社会”になるのでは、ということだ。
心配しすぎかもしれないし、うがった見方かもしれない。
だが、みんなが賛成という時ほど危険なことはないという。こういう時に反対意見にも耳を傾けるのが、バランスを取るために必要ではないだろうか。
電子書籍がなぜ日本で浸透しないのかという裏話や、日本が世界標準からズルズルと落ちている理由なども載っていて、未来予測本としても面白く読める。
あまのじゃくな人はぜひ読んでみてください。
私のアクション:Facebookはメリット/デメリットをよく考えてから