毎日「ゴキゲン♪」の法則

自分を成長させる読書日記。今の関心は習慣化、生産性、手帳・ノート術です。

翻訳者はどこまで原作者に寄り添えるか?☆☆☆

村上春樹さんの作品についてアマゾンで検索していたら、下に表示されたのがこの本。
まったく存在を知らず、詳細を見て面白そうだったのでさっそく借りてみた。
目的はもちろん、村上さんのインタビューだったのが、それ以外にもいろいろ楽しめた。


◆目次◆
I ちょっと短めに…
テス・ギャラガー 生と死はつながっている
ベン・カッチャー 僕の漫画はもっぱら経済のことを描いている
リチャード・パワーズ パワーズ村上春樹を読む
ケリー・リンク われわれはどこまでゾンビか
スチュアート・ダイベック 小説は挫折した詩、あるいは詩のDNAを隠している
II じっくり何度も話しました…
村上春樹 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を語る
村上春樹 1989年の村上春樹
バリー・ユアグロー 夢、ヤクザ映画、子どもの目
バリー・ユアグロー 桜とヤクザのいる風景
ロジャー・パルバース 英日狂演滑稽対談
ロジャー・パルバース 神のいらない時代のバイブル・ストーリーズ
III 日本でいろんな人たちと…
古川日出男 古川日出男という現象は運動体である
沼野充義 トランス・アトランティック・ドストエフスキー
内田樹 『村上春樹にご用心』をめぐって
岸本佐知子 柴田訳の秘密
IV じつはインタビューじゃないインタビュー
ジョン・アーヴィング アーヴィングはこう語った…と思う、たぶん
柴田元幸・構成 架空インタビュー
あとがき

以前、翻訳者になろうとして勉強していた時期がある。才能がない(それ以前に英語力もなかった)、と思って割合早く見切りがつけられたが、そりゃあ無理だったろうな、とこの本を読んで納得できた。
翻訳者は原作者ではない。でも、ただの黒子でもない。自分をまったく出さないわけにもいかないし、もちろんしゃしゃり出てもまずい。そのさじ加減がものすごく重要だと思う。
おそらくそこがわかってないとできない質問、というのがこのインタビュー*1では随所に見受けられる。
最高の読者であり、かつ一番の理解者でなければいい翻訳はできないのだ。

そういう人がするインタビューなので、面白くないはずがない。私は海外の小説をほとんど読まないので、正直言って知らない作者の方が多かったが、それでもところどころ楽しめた。もちろん、柴田訳のそれらの小説愛読者にとっては至福の1冊だと思う。


一方、村上作品愛読者だけど、ほとんど他の小説は読まないという人にとっても充分楽しめる。まったく関係ないインタビューは半分弱で、『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』で私が一番好きなインタビューの聞き手だった古川日出男さんや、村上さんについての評論集を出した内田樹さんのインタビューは、かなりの割合で村上さん作品について語られている。
もちろん、村上さんご自身のインタビューも充実した内容で、やはりお相手が柴田さんなので翻訳に関することが多く、興味深く読んだ。

特に面白かったのは、柴田さんご自身の書かれていた“村上さんがもし「僕」だったら”という仮想インタビュー。
村上さんはよくご自身の作品の登場人物である「僕」と同一視されているが、村上さんはインタビューでちゃんと話してくれましたよ、という報告のあとに“もし「僕」にインタビューしていたとしたら”という一節があるのだが、これがまさに「僕」だったらこんなになっちゃうだろうな、という“見事な”やりとり。さすがはよくわかっていらっしゃる、と思った。


岸本佐知子さんとの翻訳者同士のお話も深くて面白かったし、いろんな楽しみがつまった1冊。他のインタビューでも、私が翻訳に興味があるからだと思うが「原作者」と「翻訳者」の“あわい”のようなものが感じられて面白かった。
内田樹さんの内容が一番衝撃的だったので「アクション」は下のようになったが、やっぱりまだ読んでいない『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と『翻訳夜話2』も早めに読もう。
私のアクション:『村上春樹にご用心』を読む

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読書日記:『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』


※この本のメモはありません

*1:というか対談に近いと感じましたが