いつも池谷さんの著作は高度に難解(言語表現も含めて)で読む時には気合いが要るのに、これはさらっと読める本だった。
◆目次◆
はじめに
1 好運は伝染する
2 人類2・0
3 脳の不思議な仕様
4 「心」を考える初出一覧
参考文献
それもそのはず、この本は週刊朝日の連載「パテカトルの万脳薬」をまとめたものだからだ。ちなみに、パテカトルとは「はじめに」で次のように紹介されている。
パテカトルはアステカ文明の神話に登場する神です。酒の神、ひいては「薬」をつかさどる神として古代メキシコで崇められていました。その謎めいた存在が、脳そのものの不可思議さを彷彿とさせ、薬学部で脳の研究をしている私には、とくにお気に入りの古代神です(P2)。
テーマごとに再編集されているが、2012〜2013年の連載をほぼ順番に読めるようになっている。1回分が3ページで、どこからでも読める気軽な本だ。
脳科学の本はボリュームが多く集中して読まないとなかなか進まないものが多いので、こういう本はちょっとした息抜きにでも読めて貴重だと思う。
何が貴重かといえば、一番はその内容。
科学の世界では日々研究論文が発表されていて、研究者はそれをチェックするのが日課になっているという。もちろん英語。
素人が論文を読むのはいろいろな面でむずかしいが、その内容を第一人者がわかりやすく、面白く紹介してくれるのだ。こんなにありがたいものはない。
情報は日々アップデートしていないと、あっという間に古くなってしまう。
それは脳科学も同じこと。以前、男女の脳の違いがブームになった時、“女性の脳は右脳と左脳をつなぐ「脳梁」という部分が男性に比べて大きいため、コミュニケーションなどで男性より優れている”という説があったのをごぞんじだろうか。
あの説は現在では間違いだと明確に定義されているそうだ*1。私もこの本を読むまで知らなかった。
そういう話題に興味がある、面白いと感じる人にとってはとても楽しい本。
個人的には「第2言語の習得能力は環境よりも遺伝的要素が強く、後者の寄与が71%」(つまり、早くから英語を学んだからといって得意になるとは限らない)もあるとか、「IQに対する遺伝子の寄与率」(頭のよさは努力で身につけられるのか)*2の話などが印象的だった。
脳の限界や可能性を知ったおくと、自分の判断にも違いが出てきそうだ。
ピンと来た方は、読んでみてください。
私のアクション:「忘れることも脳の大切な機能」だと認める
■レベル:守
次の記事は私の個人的メモです。興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
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