読書メーターで感想を見かけ、面白そうだなと思っていたら家族が借りて来た本。
単なるハウツーものではなくて、濃い話が続く“いかにも翻訳本”ですが、読みごたえがありました。
- つい見たくなるしくみはギャンブルと同じ!
- 「デジタル片づけ」は30日間で
- 質の高い余暇活動を取り戻そう
◆目次◆
はじめに
Part1 基礎
1 スマホ依存の正体
2 デジタル・ミニマリズム
3 デジタル片づけPart2 演習
4 一人で過ごす時間を持とう
5 “いいね"をしない
6 趣味を取り戻そう
7 SNSアプリを全部消そうおわりに
謝辞
解説:佐々木典士
原注
著者はジョージタウン大学の准教授で、専門はコンピューター科学。
前著『大事なことに集中する―――気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』を読んだ読者から「プライベートの時間にはどうすればいいのか」という質問が相次いだのが、この本を書いたきっかけだといいます。
仕事以外の時間も新しいテクノロジーにつきまとわれる状況にストレスを感じる人が多いことがわかったからです。
- あなたがスマホを見れば見るほど、ソーシャルメディアが儲かるという事実
- 「承認欲求」と「間歇(かんけつ)強化」
- デジタル・ミニマリズムとは
- いざ!デジタル片づけ
- デジタル片づけのポイント
- 30日間が終了したら
- 「質の高い余暇活動」とは
- 「デジタル片づけ」その後
- まとめ
最初は、「スマホを見るのは自分の意志ではないかもしれない」というちょっと怖い話から。
あなたがスマホを見れば見るほど、ソーシャルメディアが儲かるという事実
スマホを始め、最近のデジタルツールは本当に便利です。なくてはならないものですよね。
でも、「本当に必要な時だけ」「自分の意志で」使っている人はどれだけいるのでしょう?
ちょっと空いた時間に何となく手を伸ばしたり、特に目的もなく眺めたりしていませんか。
「あなたの時間=彼らの利益」というパワーワードが紹介されています。
これは、スマホの流れに逆らい、機能を極限まで絞り込んだライトフォンの開発者がマニフェストに掲げたもの。
→実際のページはこちら
彼らがあなたの注意を引き、画面を見続けるように仕向けるのは、それが利益を生むからです。
以前Googleにいたトリスタン・ハリスという人物は、テクノロジー企業がスマホを見ずにはいられなくなるようアプリをデザインしていることを内部告発しています。
「承認欲求」と「間歇(かんけつ)強化」
「見ずにはいられなくなる」しくみは2つ。
「承認欲求」はよく知られていますよね。「周りの人に認めてもらいたい」という欲求です。
集団で暮らしていた太古の昔から、周りに尊重してもらえるかどうかは生死に関わる問題。脳は周りの反応を気にしてしまうようにできています。
いいねボタンを押してもらいたい、と思うのはごく自然と言えます。
もうひとつの「間歇(かんけつ)強化」は、「必ずもらえる」よりも「もらえるかもらえないか、半々」の方が強い快感を得られる、というしくみのこと。
…決まったパターンで報酬を与えられるよりも、予期せぬパターンで与えられた方が喜びが大きくなることは科学者の間で知られていた。予想外のタイミングでもらったほうが、快感を司る神経伝達物質ドーパミンの分泌量が多くなるのだ(P38)。
いいねボタンのしくみは、まさしくこれと同じ。
毎回押してもらえるとは限らないので、期待と不安でドキドキする時がもっともドーパミンを放出していることになります。
※間歇強化については、こちらのサイトがわかりやすいです。
shinrigaku1.coresv.com
さらに、私にとってショックだったのは「あちこちのリンクをクリックして記事を渡り歩くのも、同じくドーパミンの快楽を求める行動だ」という事実。
これもまた、ランダムな報酬によって引き起こされる行動だ。ほとんどの記事は“はずれ”だが、義憤であれ笑いであれ、何らかの強烈な感情をかき立てる記事にときどき“当たる”。おもしろそうな記事タイトル、おもしろそうなリンクをクリックするという行為もまた、たとえるなら、スロットマシンのレバーを引くのと同じ(P39)。
なるほど。確かに、たまに素晴らしい記事やサイトにたどり着くとスカッとしたりうれしくなったりします。
何時間もネットをさまよっていたのは、快感がほしかったからなのか…。
スキナーの箱のハト*1と同じだったとは。
デジタル・ミニマリズムとは
この根深い問題を、ちょっとしたライフハックで何とかしようとするのは無理だ、と考えた著者。
自分が大切にしているものを軸に、テクノロジーとの関係を一から築き直さなければならない。
哲学が必要だという結論に達しました。
その哲学が「デジタル・ミニマリズム」です。
私たちに必要なのは、いま決定権を握っているもの、すなわち人々の原始的衝動やシリコンヴァレーのビジネスモデルを玉座から追い落とし、自分の真の望みや価値観に従って日々の行動を選択するよう促す哲学だ。新しいテクノロジーを受け入れつつ、それを利用する代価が…人間らしさの喪失であるならば、迷いなく排除するような哲学。短期的な満足よりも、長期的な価値を優先するような哲学(P17)。
中でも、自分で主体的に選択すること、自分でコントロールしていることの重要性を説いています。
デジタル・ミニマリズムの有効性を支えているのは、利用するツール類を意識的に選択する行為そのものが幸福感につながるという事実だ。そしてその幸福感はたいがい、排除したツール類から得られていたであろうメリットよりも大きい(P78)。
いざ!デジタル片づけ
そこで必要になるのが、「デジタル片づけ」です。
やり方はシンプル。
デジタル片づけのプロセス(P82)
- 30日間のリセット期間を定め、かならずしも必要ではないテクノロジーの利用を休止する。
- この30日間に、楽しくてやりがいのある活動や行動を新しく探したり再発見したりする。
- 休止期間が終わったら、まっさらな状態の生活に、休止していたテクノロジーを再導入する。その一つひとつについて、自分の生活にどのようなメリットがあるか、そのメリットを最大化するにはどのように利用すべきかを検討する。
この30日間を断食と考えると元に戻ってしまいやすい、と著者は書いています。
その間に、自分にとって「質の高い余暇活動」を見つけておくのがおすすめ(後述します)。
デジタル片づけのポイント
禁止するテクノロジーと関連する運用規定のリストが完成したら紙に書き出し、毎日必ず目にする場所に貼っておくこと。リセット期間中にやっていいこと、いけないことを明確に線引きしておくことが成功のカギ(P91)
だとか。
30日間が終了したら
デジタル片づけ終了後、明らかに自分に大事なものだけを再導入します。
ここでも、明確な線引きが必要です。
- 大事なことがらを後押しする(何らかのメリットがある程度では不充分)。
- 大事なことがらを支援する最善の方法である(最善の方法ではないなら、代わりに別の方法を考える)
- いつ、どのようにそのテクノロジーを利用するかを具体的に定めた標準運用規定に沿った形で生活に貢献できる(P100)。
「デジタル削減後に、空いた時間を何で埋めるか」ではなく、「『これをやりたいからムダな時間を減らそう』と思ってデジタル削減」の方が成功率は高いそうです。
つまり、デジタル片づけ期間中に、新しくやりたいこと(昔やっていたことでもOK)を決められるかどうかがカギになります。
デジタル片づけのプロセス2にもありますね。
著者が「質の高い余暇活動」と呼んでいるのがそれ。
「質の高い余暇活動」とは
著者は次のようなことを勧めています。
- 受け身の消費よりも体を動かす活動を
- 手仕事推奨。物質的な世界で何かを作り出そう
- リアルな世界での交流が必要な活動を
本の中に、具体的なプログラムも紹介されています。
体を動かしたり、手を使うなどデジタルでは得られない体験や、人とのコミュニケーションが必要なものがいいようです。
ひとりでパソコンに向かってやることだと、デジタル片づけ以前とあまり変わりませんからね。
「デジタル片づけ」その後
さて、デジタル片づけは一度やったらおしまい、というものではありません。
その後も生き方として続けていければ理想的。
…デジタル・ミニマリズムをうまく維持していくためのカギは、問題はテクノロジーではなく自分の人生の質なのだという事実を受け入れることにある(P292)。
人生で大切なものは何か。そのためにどのテクノロジーをどれだけ取り入れるか。時々自分で確認してみる必要があります。
まとめ
「自分の時間を取り戻そう。もっと大切なことに使おう」という啓発の書。
今回は紹介できませんでしたが、「人間には孤独が必要」や「デジタルネイティブに起きている危険」など、興味深い内容がたくさん。
読破力に自信のある方はぜひ読んでみてください。
参考:この本の紹介記事
toyokeizai.net
私のアクション:「デジタル片づけ」(5月末まで実践中)♪
■レベル:破 ※なかなか噛みごたえのある本です
次の記事は私の個人的メモです。興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
book.yasuko659.com
*1:中野信子著『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体 (幻冬舎新書)』にも出てきます。 book.yasuko659.com