著者は中・長距離で元カナダの代表選手だった人だ。その後物理学博士号を取り、現在は科学ジャーナリストとして活動している異色の経歴の持ち主だ。この経歴が、他にないニュートラルな内容の本を書けたとも言える。
運動にまつわる素朴な疑問から、体重コントロールやアンチエイジングなど関心の高いテーマまで、Q&A形式で12の章にまとめられている。「ストレッチに効果があるのか」や「トレッドミルと屋外のどちらを走るのがいいか」という長年の疑問なども、現時点でわかることがしっかり述べられていた。
ふつう、こういう本はどうしてもスポンサーへの配慮や、研究者の利害関係などで、額面通り受け取るのがむずかしいことが多い。
しかし、この本はたくさんの論文やインタビューなどから導き出された結論が提示されている。一般に常識とされていることがあっさり否定してある記事もかなりあり、よけいに好感が持てた。
この本に書かれたことすべてが正しいとは断言できないが、検証プロセスは信頼に値する。トレーニング方法なども日々新しくなっているので、こういう本で自分の知識をUPDATEすることも必要だろう。
興味のある章だけ読むのでも充分価値があります。
私のアクション:体調がよくなったら、また早歩きから再開しよう
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。
有酸素運動でミトコンドリアが増加(P28)
ミトコンドリアは筋肉内で酸素をエネルギーに変える働きをし、その数が増えるほど、速く、遠くまで走れるようになり、脂肪も燃焼しやすくなります。約6週間のトレーニングで、ミトコンドリアの数が1.5倍から2倍も増加することが明らかになっています。
トレーニングで脂肪燃焼を狙っても無意味(P266)
トレーニングで主に炭水化物を燃焼した場合、トレーニング後の数時間で摂取するカロリーは、炭水化物の燃焼分を補給するために使われます。一方、トレーニング中に多くの脂肪を燃焼するよう調整した場合、炭水化物は満タンのままです。すると、トレーニング後に摂取するカロリーは、そのまま脂肪として蓄えられてしまうため、脂肪を燃焼するための努力がまったく無意味になってしまうのです。
早歩きと気軽な散歩の違いを心にとどめておく(P275)
時速約8キロで歩くのと時速約3キロで歩くのとでは、燃焼カロリーが3倍以上も違います。
睡眠時間と食欲ホルモンの関係性(P278)
※グレリン…濃度が上がると何か食べたいと思うホルモン
レプチン…濃度が上がると満腹を感じるホルモン
たったひと晩でも睡眠時間が短くなるとグレリンの濃度が上がることがわかりました。これで、疲れている時に無性にお菓子が食べたくなる理由を説明できます。同じく、短時間睡眠が2番続いただけで、レプチンの分泌量が減り、満腹を感じにくくなります。必要な睡眠時間よりもほんの1〜2時間短い場合でも、レプチンの分泌量が減ります。
運動そのものにも抗酸化作用がある(P306)
運動をしている間、身体は運動によるフリーラジカルの急増を受けて、徐々に独自の抗酸化物質を作ることを覚えていく。今支持を増やしている理論は、必要以上の抗酸化物質を摂取してしまうと、身体が自力で適応しようとする機会を失ってしまうというものだ。
序盤はやや速めに走るといいタイムが出る(P356)
長距離走では一定のペースで走るより、序盤に少し速度を上げて走るとゴールする時間が早くなることがある。