前作が出たのが2007年なので、それ以降の作品が新たに追加されている。
◆目次◆
新版の読者のみなさんへ
はじめに──村上春樹の太古的な物語性について
1 初心者のための村上春樹の「ここが読みどころ」
1 ご飯を作るシーンと掃除をするシーン
2 トラウマとその「総括」
3 海外生活
4 「学生運動」について
5 世界に構造を与える力
6 セックス・シーン
7 司馬遼太郎と村上春樹の「フェアネス」
●「手持ちの資源でやりくりする」こと〜『走ることについて語るときに僕の語ること』評2 『1Q84』とエルサレム・スピーチを読む
壁と卵──エルサレム・スピーチを読む
「1Q84」読書中
「父」からの離脱の方位
「子ども」に今できること──『1Q84』BOOK3評
困ったときの老師頼み
●『ペット・サウンズ』の思い出3 村上春樹の世界性
「ノーベル賞受賞祝賀予定稿」2009年ヴァージョン
村上春樹と司馬遼太郎
「父」の不在
霊的な配電盤について
冬のソナタ』と『羊をめぐる冒険』の説話論的構造
食欲をそそる批評
「激しく欠けているもの」について4 翻訳家・村上春樹の翻訳を語る
「翻訳=写経」論
村上春樹の翻訳作法/村上文学が世界性を獲得した理由/奇跡のタッグ/趣味は翻訳/すぐれた物語は身体に効く
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読む
君」とはホールデン自身である
極東のアヴァター――『羊をめぐる冒険』と『ロング・グッドバイ』
●三〇〜四〇代の女性に薦める一作――『神の子どもたちはみな踊る』5 うなぎと倍音
うなぎくん、小説を救う
太宰治と村上春樹
倍音的エクリチュール
100パーセントの女の子とウェーバー的直感について
●アーバンとピンボールの話6 雪かきくん、世界を救う
村上春樹の「労働哲学」
村上文学における「朝ご飯」の物語論的機能
お掃除するキャッチャー
After dark till dawn
村上春樹とハードボイルド・イーヴル・ランド旧版のあとがき
新版のあとがき
初出一覧
2冊を並べて見比べているわけじゃないので私の印象だけだが、7〜8割は同じものが収録されてる感じだ。ただ、章の順番が大胆に入れ替わっているので、それだけでもずいぶん感じ方が違う。
作品としては、『1Q84』の他に『走ることについて語るときに僕の語ること』が出ている。
さらに大きいのは、あのエルサレム・スピーチ「壁と卵」について、内田センセイの言葉が読めること。これはうれしかった。私はただ表面的な意味しか理解していなかったのか、と感じたし、あのスピーチが『1Q84』につながっているなんて考えたこともなかったのでちょっと感動した。
旧版で私が面白いと感じたものはすべて収録されていたので、私ならこちらを買います。
わざわざ小説を先に読んでから読んだ『1Q84』論は、文句なしに面白かった*1。
村上さんの主義主張にならって「評論を読むのは馬糞小屋を開けるようなもの。無視するに限る」と長年頑なだった村上さんファンの方、一度読んでみてください。マッサージで「そう、そこそこ!」と思うのと同じくらい快感があります。
著者の『邪悪なものの鎮め方』収録の「1Q84」論も再録されているので、既読の方はご注意を。
私のアクション:『邪悪なものの鎮め方を読む』
関連記事
読書日記:『村上春樹にご用心(旧版)』
続編じゃなかった!
以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
私たちは「手持ちの資源でやりくりする」ことしかできない(P43)
使えるものは何でも使うこと。そういう使い道があるとは思わなかったものの思いがけない用途を発見すること。それが「家政」の要諦である。
村上さんに「翻訳」「走る」「変な本を書く」の3つが必要(P148)
「…一日中机に向かって書けばいいじゃない」と考えるかもしれませんけど、実はそうじゃない。頭の中には、書いている時に使う部位と全然異なる部位があって、そこも使ってないとだめなんです。視覚で得られる情報だけでものを書いていると、聴覚とか運動系の機能は停止する。これを起動しないと、脳全体の機能が下がってくる。脳を活性化するためには、動かせるものは全部動かさないと。
*1:ほんの細かいところで「そうですか?」という点はいくつかありましたが