河合隼雄さんの対談がたくさん出ていることを知って借りたうちの1冊。
茂木さんと河合先生の組み合わせ、もう面白いに決まっている、と期待して読んだ。期待以上に面白かった。
◆目次◆
第1回 こころと脳の不思議
第2回 箱庭と夢と無意識
第3回 「魂」を救う対話
この本も、河合先生が亡くなられたのちに出版された本だ。
3回に分かれ、3回目は茂木さんが講師を務めるカルチャーセンターの連続講座に特別ゲストで河合先生が登場した、公開の対談が収録されている。
小川洋子さんが『生きるとは、自分の物語をつくること』の「長いあとがき」で書かれていた、茂木さんが聞いたタクシー運転手が身の上話をしてしまう、というエピソードも登場する。
河合先生だとばれていないのに、あいづちをひとつうったら、それから運転手さんがどんどん自分の話を始めてしまう、というものだ。1人だけではなく、何人もあったそうだ。
ここに、「聞く」という行為の核心が詰まっている。
タクシー運転手のエピソードを受けて、河合先生のあいづちを収録して自動的に反応させたらダメか、という茂木さんに河合先生は「そこが人間が生きているということやと思う」と答えていた。
大切なのは、あいづちをうつタイミングでも、音程でもないのだ。
人が聞くというのは、「壁に向かってしゃべるだけとは違う。」と河合先生はおっしゃっていた。
上のエピソードもその一つだが、やはり心理療法の話が面白かった。自分は何もしない。ただ聞いているだけ。でも、中心をはずさずに受け止める。
あいづちはうつ河合先生とは違い、ただ部屋にじっと座っているだけで、聞いているかどうかもわからない、というやり方の欧米の心理療法家もいるそうだ。
クライアントは、ただその部屋に入って、ただしゃべって帰るだけ。それでも、たくさんのクライアントが回復したのだという。
その人は実績もあったのにわりあい早くに引退を決めたので、河合先生は「まだできるんじゃないのか」と尋ねたところ、「あんな体力のいること、もうできない」と言われたそうだ。
ただじっと座っているだけに見えて、「そこにぶれずに居続ける」ことがいかに大変か、そしてそれがクライアントの回復を助ける支えになるのだ、というエピソードは凄みを感じた。
茂木さんが学生時代に体験して以来、興味をずっと持っていた「箱庭」を実際にやってみる「第2回」も面白い。クライアントなら一切解釈はしないそうだが、この時は療法ではないので解説があり、茂木さんが今どういうことを思っていて、これからどうしたいと考えているかまで言い当てていてすごかった。
箱庭を作るだけで、癒されることもあるそうだ。
全体を通して感じたのは、「科学か、非科学か」というテーマ。お二人とも科学では捉えきれない領域で活躍されていたので、「科学的かどうか」という評価に対する疑問や苦労の話は興味深かった(下のメモはそれに関することが多くなっています)。
読んでいて本当に興味が尽きない対談だった。改めて、喪失感が強くなった。
文化庁長官なんかせずに、“やりたいこと”として対談でも挙げられていたいろんなことを、もっと極めて欲しかった。
対談なので気楽に読めますが、奥が深いです。
私のアクション:対談以外の河合先生の本も読んでみる
■レベル:破
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