奥野宣之さんの文章術の本、と聞いたらこれは期待する。
奥野さんはもともと業界新聞出身なので、きっちりした文章が書ける人だ。
しかも、著書では距離感がほどよく、いつも親近感が持てて好印象。
その辺のコツが公開されているといいな、と思って読んだ。
いわゆる「文章術」とは違う、面白い切り口の本だった。
◆目次◆
はじめに
■第1章 つかむ――読みはじめのハードルをいかに超えるか
・第1講 とりあえず言い切る!
・第2講「予防線」は張るな
・第3講 マナーとしての「大風呂敷」
・第4講「人称」で距離を縮める
・第5講 読み手は疲れている■第2章 のせる――醒めずに心地よく読み続けてもらうために
・第6講 安心させる「これから」ナビゲーション
・第7講 納得させる「ここまで」ナビゲーション
・第8講「実感と共感」を埋め込む
・第9講「意味のかたまり」で受け取りやすく
・第10講 文章だって「イケメン」のほうがいい■第3章 転がす――読み手の意識をコントロールする
・第11講「作文記号」にどんどん頼れ
・第12講「リズム」より「抑揚」
・第13講「緊張と緩和」をつくる
・第14講「表現のインフレ」を避ける
・第15講「愛してる」より「声が聞きたい」■第4章 落とす――論理としての「正しさ」よりオチの「納得感」
・第16講「仕切り直し」のための必殺フレーズ
・第17講「スイカに塩」の法則
・第18講 ネット上でのツッコミへの対処法
・第19講 言葉の「相場観」を身につける
・第20講 大事なことは書かない
おわりに
※サブタイトルは“「つかむ・のせる・転がす・落とす」名文に学ぶ4つのステップ”
その秘密はタイトルに書いてある。
「読ませる」が優先順位トップなのだ。「わかる」でも、「伝わる」でもなく、「読ませる」。
最近は情報があふれて、読む側は疲れている、少しでも面白くないと読んでもらえない。まずは最後まで読んでもらえる文章を、というのがこの本の狙いだ。
奥野さんは「これは読む価値がありそうだ」と思われる文章を「ツヤのある文章」と表現している。
では、「読んでもらう」ためには、文章に何が必要なのでしょうか。 ひとことで言うと「ツヤ」です。
爽やかさを感じさせる文章の調子や、パッと見て抵抗なく入っていけるような文字の並び、何かあるんじゃないかと思わせる間の持たせ方、読んでよかったと思えるオチの納得感……、こういったものを文章に埋め込んでおかなければいけません。
逆に言えば、わかりやすくて正確なだけの「明文」では、ダメなのです(P3-4)。
これは衝撃だった。今まで「わかりやすい文章」を肝に銘じてきたのに、もうそれでは読んでもらえないのか。
この本では、ツヤにある文章にするためのポイントを4つのステップに分けて紹介している。
「文章術」というと、コラムやエッセイを書くわけじゃないから自分には無関係、と思いがちだが、この方法はビジネス文書全般、報告書や企画書、上司へのメールにも使えるという。
この本で紹介されたコツを使って、「モヤモヤ文章」を「イキイキ文章」に変える例がさまざま出ていて、その中には商店街の宣伝文や履歴書の自己PR文まである。応用範囲は広そうだ。
全部で20のレッスン、ポイントがはっきりしているので、自分の弱点や今すぐ何とかしたいところから読むこともできる。
私には「落とす」のところが新鮮だった。
また、この本にはもうひとつの楽しみがある。各講にテーマに合うさまざまな本からの引用があるのだ。
うしろの著者プロフィールを読んで知ったが、奥野さんは
小学生のころからエッセイや雑誌コラムばかりを読みあさっていた筋金入りの雑文好き
なのだそうだ。
知らない本からの引用も多く、さっそく何冊か探書リストに入れさせてもらった。
手っ取り早く何とかしたい、たとえて言うなら「肉体改造は大変だから、まずは着やせテクを」という人に向いています。
とは言え、この本に書かれていることをいくつか実行すれば、すぐに文章をある程度ブラッシュアップできるはず。
人に読んでもらう目的で文章を書くなら、一読の価値ありです。
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以下は私のメモなので、興味のある方はどうぞ。※メモに関してこちらをご覧ください。
冒頭で断言する(P20)
とりあえず、機械的に断言してみる。その上で、続く文章を考える。
最初に断言すれば、続く文章で遠回しな言い方をしたり、語尾をぼかしたりしにくい。そこから展開するうちに、文章が勢いづいてくる。
思い切って言い切ってみると、おのずと文章が短くなり、テンポもよくなる。
炎上を避けるよりも、文章の明朗さの方が大切(P34)
反論や異論だけでなく、的外れなツッコミが来るかもしれないとしても、あえて受け入れよう。
保険はかけず、潔く。そんな「捨て身」の姿勢が、読み手に響く。
二人称は距離を詰める。三人称は距離を取る(P55)
メールに「お困りの場合は、奥野までお願いします」と書いてあると事務的な冷たい印象。「お困りの場合は、僕に聞いてください」とした方が、親切な感じ。
目標は「小学生でもわかる」文章(P65)
そこまで下げようとしない限り、なかなかやさしい文章は書けない。
ある言葉を使っていいか迷った時は、「この言葉は、小学生に通じるだろうか?」と考えてみるとよい。
「小学生でもわかる文章」の感覚を身につけるには、児童書を読むとよい。
図書館の児童書コーナーで、小学生向けの「経済のしくみ」「お金とは何か」「裁判所って何?」といった本を読む。
わかりやすくてムダのない児童書は、「読ませる文章」の理想的なモデル。
段落をどこで切ればいいのか?(P125)
「変えた方が字面がスッキリするところで」
ただし、「規則性が見えない」というのが大事。
5行くらいで改行する癖があると、単調になってマヌケ。
そこに一行段落を入れたり、入れなかったりすると、規則性が読み取れなくなる。
そんな字面を作れば、洗練された印象を与えられる。
「表現のインフレ」を避ける(P166)
テンションを上げすぎないこと。
曲のサビと同じ。山場を作るために、そこ以外は抑制しておく。
現代はむしろ、飾り気のない「地味な言葉」が引き立つ時代(P176)
最近は派手な言葉が多いので、地味な言葉の方が目立つ。
最後は「落ちた感じ」が大事(P190)
最後まで読んでよかったと「納得」できるか。文章というのは、多少ヘンであったり、よく考えれば論理がおかしかったりしても、心地よく読んで違和感を覚えなければOK。
「終わりっぽい文章」を皮膚感覚として身につける(P192)
一般的な文章に「これで終わりですよ」の定型はない。
まずは、新聞や雑誌のコラムエッセイがどんな筆致で文章の「終わりっぽさ」を出しているか、注目しながら読んでみる。
文章にあえて「隙」を作っておく(P215)
ツッコまれないための一番いい方法は、「いくらでもツッコめる」「ツッコんでも仕方ない」と思われるような文章を書くこと。
「正論なのに炎上する」のではなく、「正論だから炎上する」のがネット。
現代人は「深み中毒」(P237)
情感的な言葉や含蓄のある表現を使いすぎるせいで、読む側がかえって醒めてしまう。もっとドライに、簡素にした方が、感動は伝わる。