脳は生き延びて子孫を残すために進化したのであり、幸福を感じるためではない
- ポイント1 幸せは長続きしなくて当然
- ポイント2 運動している時に思考能力が上がる理由
- ポイント3 孤独は大きなリスク
◆目次◆
第1章 私たちはサバイバルの生き残りだ
第2章 なぜ人間には感情があるのか
第3章 なぜ人は不安やパニックを感じるのか
第4章 人はなぜうつになるのか
第5章 なぜ孤独はリスクなのか
第6章 なぜ運動でリスクを下げられるのか
第7章 人類の歴史上、一番精神状態が悪いのは今なのか?
第8章 なぜ「宿命本能」に振り回されてしまうのか?
第9章 幸せの罠
最も建設的な「幸せの定義」
ポイント1 幸せは長続きしなくて当然
いきなり悲観的な話ですみません。
先に前提条件をお伝えしておきます。
この本は著者アンデシュ・ハンセンさんの4冊目の本。
この本でも、過去の著書での主張
- 「私たちの脳は1万年前から進化していない」
- 「脳は現代の生活にまだ適応していない」
- 「もっとも脳を活性化するのは運動」
は同じです。
――以上を踏まえて。
脳は身体と同じく、当然のことながら「生き延びる」ことが最大のミッションとして進化してきました。
なので、優先順位が現代の私たちと合わないことも。
私たちは「幸せになるために生きている」と考えますが、残念ながら、脳はそうではありません。
むしろ「幸せ」(ここでは満足感と考えます)は長続きすると生き延びられない、だからすぐ消える、ように設定されているのです。
たとえば。
満腹になると幸せを感じるのは昔も今も同じ。
しかし、ずっと満足したままでいると、空腹になっても動こうとしなくなってしまいます。
すると、新しい食べ物を探すモチベーションが湧かず、飢え死にしてしまう。
つまり幸福感というのは消えてしかるべきなのだ。でなければ感情は私たちを動機づけるという本来の役割を果たせない(P42)。
○○さえあれば幸せになれるのに、と思う。その実現のためにがんばる。
でも、いざ手に入れてみたら、その満足感はあっという間に消えてしまう。
あなたも経験ありますよね?
実はそれは、生き延びるための脳の仕様だったんです。
残念ですが「幸福感は長続きしなくて当たり前」と思ってください。
ポイント2 運動している時に思考能力が上がる理由
ここ10年の研究で、運動が私たちの精神状態だけでなく、思考能力も向上させることがわかってきました。
しかし、これも1万年前の人間の暮らしを考えれば当然。
私たちが歴史上のほとんどの時間、身体を動かしていた時に思考能力をもっとも必要としていたからだ。狩りや採集の最中に新しい情報を得て、覚えておかなければいけなかった(P192)。
もっとも頭をフル回転させなければならなかったのは、食物を手に入れる時でした。
だから、その時に脳が活性化するようになったんですね。
ただ、現代の生活では最も頭を使う時に体を動かしているのはまれ。
なので、著者は運動によって思考能力が冴えるしくみを利用することをすすめています。
走ったり、早足で散歩しながら考える、とか。
少なくとも、座って「脳トレ」するよりは、その辺を走ってきた方が脳は活性化します。
ポイント3 孤独は大きなリスク
近年、実は孤独は運動不足、睡眠不足、ストレスアルコールと同様に、重大なリスクになることがわかってきました。
この本でもたくさんのデータつきで言及があります。
ここにも、やっぱり1万年前の暮らしが関わってくるんですね。
地球上にいた99.9%の時間、私たちは生き延びるためにお互いを必要としてきた……集団は生存を意味し、社会的な絆を大切にしたいという強い欲求を持っていれば命をつないでいけるオッズが高かった(P128)。
つまり、長期間ひとりでいると、脳にとっては死ぬリスクが高まった状態、ということになります。
その結果、交感神経優位の状態が続き、病気のリスクが上がる。
これを防ぐには、誰かと連絡を取ったり、仲間に入ったりすること。
そうすることで、太古の進化メカニズムは「もし何かあっても誰かが助けてくれる」と解釈する。
脳はもう脅威は大きくないと判断し、交感神経も落ち着きます。
――ひとりの方が気楽でいいや、と思いますが、脳は「危険だ!」と判断してしまうんですね。
面倒がらず、他者とのコミュニケーションはある程度しましょう。
仲のいい人も何人かは持っておきましょう。
これは自戒も込めて書いています。
浅い知り合いがたくさんいるよりも、深くつき合える人が何人かいる方がよい、という研究結果も。
なので、あわてて新しい知り合いを作らなくても大丈夫です。
ちょっとホッとしますよね。
感想
アンデシュ・ハンセンさんの本は、日本語訳されたものはひととおり読みましたが、個人的にはこの本が一番面白かったです。
原著は2021年10月出版。
長年精神医学に携わり、実際の診療も行っている著者が書いた本は、(文献リストは載っていないものの)たくさんの論文の裏打ちもあり信頼が置けます。
専門家なのに、とてもわかりやすく書いてあり、ベストセラーになるのも納得です。
脳のしくみが現代に追いついてない、というのは著者の本に共通する主張ですが、脳のしくみを知っておくことで、少しは生きやすくなるはず。
この記事では触れませんでしたが、うつもパニックも脳の自然な防御反応であり、もともとは病気ではない、というのには驚きました。
※ただし、日常生活に影響するなら受診をすすめています
そしてやっぱり運動がいかにいいか、ということも書いてあります。もちろん。
こんな人にオススメ
うつ症状や不安がある人はもちろんですが、現代を生きるすべての人に役立つ本。
運動しなきゃなー、と思いながら重い腰が上がらない人にも、モチベーションを上げてくれるはず。
脳のしくみを知って、自衛しましょう。
■レベル:守
私のアクション:週に2時間、心拍数を上げる運動をする。まずは速歩き
エンドルフィンは生化学上、友情や親密さを感じる際…物理的に身体を触れられた時に出る——
— やすこ (@yasuko659) 2023年1月12日
アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』
画面越しに会うだけじゃダメな理由はこれ。孤独が病気の大きなリスクだとわかってきた現代、可能なら直接会える機会を増やしたい#読了 #本が好き #新潮新書 pic.twitter.com/53wz2JpFnj
次の記事は私の個人的メモです。興味のある方はどうぞ。※メモのスタンスはこちら
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